脊損、なんでも起きる
最近だと谷垣元幹事長やプロレスラーの高山善廣などが、脊髄損傷を患いました。
個人的に脊髄損傷はリハビリの総本山だと考えています。それは医学・保険制度・住宅環境など、全ての知識が必要だからです。
脊髄損傷では様々な問題が起きます。メジャーなものでも
- 運動・知覚麻痺
- 褥瘡(床ずれ)・スキントラブル
- 呼吸器感染症・睡眠時無呼吸症候群
- 排尿障害、尿路感染症
- 便秘・下痢・便失禁
- 性機能障害
- うつ
- 復職 社会復帰。
つまり、なんでも起きリハの対象となります。
だからこそ勉強・工夫のしがいがある疾患です。多岐にわたるので少しずつ記事に出来たらと思います。
本記事では脊髄損傷、と言うか、そもそも脊髄損傷の脊髄って何だろうか??みたいな話をします。
解剖
我々は脳から指令を出して、神経を通して筋肉を動かしています。また感覚は逆に全身から神経を通して脳に伝わります。その内背骨の中にある神経の束を脊髄と言います。なので運動指令は脳→脊髄→末梢神経→筋肉と伝わります(感覚神経は末梢神経→脊髄→脳と逆に伝わります。また脳神経は脊髄では無く脳幹部や直接脳に伝わります)。
脊髄の太さは8mm✖10mmと結構細いです。長さは40-50cmくらいです。
脊椎と脊髄は良く混同されますが、脊椎は骨・背骨です。脊髄は神経なので全くの別物です。例えば同じ捻挫でも、頚椎ねん挫=むち打ち、頚髄捻挫=頚髄損傷であり、重症度が天と地ほど違いますのでご注意ください。骨は折れても治りますが、神経は壊れると一般的に回復が厳しいです。
少し複雑な話をします。脊髄損傷の時によく神経高位という概念があり、CやThなどの略称を使います。これは脊椎の高さ(位置)を表すために用い、C:頚椎(首)、Th:胸椎(胸)、L:腰椎(腰)、S:仙椎(尻)となります(脊椎の高さ≒脊髄の高さ)。
頸椎~仙椎は複数個あり、Cは7個,Thは12,Lは5,Sは5個あります。そして番号をふる際には、例えば5番目の頸椎はC5、7番目の胸椎はTh7と表します。(Cだけは骨は7個ですが、神経は8個あります)
https://spinalcordinjuryzone.com/answers/9243/what-is-asia-impairment-scale
また原則、神経の高さごとに支配する神経・感覚を感知する場所が決まっています。(下図参照 (参照:American Spinal Injury Association HP))
例えばC5ではMotor(運動)はElbow Flexion(肘曲げる・力こぶ作る)で、Sensory(感覚)は二の腕辺りになります。
脊髄高位ごとの機能
なんでこんなに詳細に高さ毎に見ていくかと言うと、高さが1つ違うだけで行える動作が全く変わってくるからです。下図は運動レベル(この高さまで動かせる)での残存筋・可能な運動・ADL(≒日常動作)を表した表です。
運動レベル | 主な機能残存筋 | 可能な運動 | 可能なADL |
C3以上 | 顔面筋・僧帽筋・胸鎖乳突筋 | 頚部可動 | 基本的に全介助
人工呼吸管理必要 |
C4 | 横隔膜 | 自発呼吸 | 基本的に全介助 |
C5 | 三角筋
上腕二頭筋 |
肩関節外転・屈曲 肘関節屈曲 | 装具を用いた食事・整容
自力での車椅子駆動(平地) |
C6 | 撓側手根伸筋 | 手関節背屈 | テノデーシスによる物の把持
更衣・移乗の一部介助 男性では自己導尿 |
C7 | 上腕三頭筋 指伸筋 撓側手根屈筋群 | 肘関節・手指伸展
手関節屈曲 一部の手指屈曲 |
プッシュアップによる移乗自立
車いす自走 |
C8-Th1 | 指屈筋群 手内筋 | 手指巧緻運動を含めた上肢運動全般が可能 | 普通型車いすでのADL自立 |
Th12 | 腹筋群 | 骨盤挙上 | 長下肢装具+クラッチでの歩行 |
L3 | 大腿四頭筋 | 膝関節伸展 | 下肢装具(AFO)・杖での歩行 |
参照:現代リハビリテーション学
例えばC5まで動けば肘曲げることが出来るので車いすを手で操作したり、特殊な装具で食事も自分で取れます。しかしベッド→車いすの移動など多くの場面で介助が必要となります。でもC6まで手首を反らすことが出来ます。物もつかめますし、ベッド→車いすは一人でできます。また車の運転も可能となります。
一つ違うと世界が変わる。その一つも3cm程度。すごくデリケートな世界です。
ちなみに一番差が出るのが、さっきのC5とC6の差です。なぜならC6ではテノデーシスという技術で物が掴めるからです。テノデーシスとは手首を反らした時指が曲がり、逆では指が伸びる現象です(下図)
http://www.eatonhand.com/complic/figures/tenodesis2.htm
指を伸ばす腱の長さと、曲げる腱の長さが違うために起きます。このような解剖学的仕組みを利用しながら日常生活に復帰していくのが、リハビリでは重要となってきます。
先に述べたように脊髄損傷はボリューミーなので、複数回に分けて書いていこうと思います。
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