筋電図の進め方⑥:ALS(筋萎縮性側索硬化症)

まとめ

神経伝導検査:運動神経△、感覚神経〇

針筋電図:多くの筋肉で×

ALS、日本語では筋萎縮性側索硬化症です。運動神経、正確には前角細胞のみが障害を受けるため意識や感覚は残存します。そのため自分の体が徐々に動かなくなるのを自覚しながら症状が進む難病です。現在のところ有効な治療薬はありません。

ALSは個人によって進行速度が大きく違い、発症から診断されるまでの期間もバラバラです。また発症~診断までの期間と診断~死亡までの生命予後は同じくらいと言われています。つまり急性発症の予後は不良です。

筋電図を進める際に重要な所見(視診)

一般的に手先が不器用になった・話しにくい・飲みにくいなどの症状から始まることが多いです。また体の先(指先・足先・顔)から症状を認め徐々に体の中心に近づく傾向があります。

視診の特徴としては①Fasciculation(線維束性筋収縮)②APB-ADM-FDIの萎縮の差です。特に②は非常にALSに特徴的です。

①Fasciculationは勝手に筋肉が収縮する現象です。有名なミオクローヌス(電車で寝ている人がビクンッと体が跳ねるようになる現象)よりもゆっくりで『モコモコ ピクン・・・ピクン・・・』と収縮するのが特徴的です。

②APB-ADM-FDIの萎縮の差ALSではAPB(短母指外転筋)やFDI(第一背側骨間筋)は萎縮が強いのに、ADM(小指外転筋)は萎縮が軽いことが多いです。ここで重要になるのですが後述する神経伝導検査、尺骨神経の運動神経CMAPはADMで導出します。でもADMは障害されにくいので検査結果が一見正常に見えてしまうことがあるので注意してください。

筋電図は下記のAwaji基準に則り行います。ちなみにAwajiはあの淡路島の事です。そこで採択されたのでこの名前になりました。

脳幹≒脳神経、脊髄3領域=頸髄・胸髄・腰仙髄を意味します。つまり全身の神経・筋肉を調べますのですごーーーーく時間がかかります。軽く1-2時間はかかります。

神経伝導検査

四肢の神経

全身を見なくてはならないのですが、神経伝導検査で調べられる神経ってそんなに多くは無いのです。よくやるのは頸胸髄領域:正中・尺骨神経、腰仙髄領域:脛骨・腓腹神経です。

特にこの検査で見たいのは運動神経CMAP&F波△、感覚神経SNAP〇です。ただここで注意点があり①あまり運動神経CMAPのNCVは低下しない②尺骨神経の解釈

①は確かに運動神経(前角細胞)がALSでは障害されますが全部がやられません。なので二点間刺激の最小潜時同士の差から速度を求めるNCVでは、生き残っている正常の神経線維の伝導速度を求めるのでそこまで低下しないのです。正常の70%以下になることはめったにありません。逆にNCVの低下が著名なら脱髄疾患が疑われALSは否定的となります。余談ですが生き残っている神経は減るのでAmplitude(電位)は著減します。

②は先ほど説明しましたが尺骨神経の運動神経CMAPはADMで測定します。でもADMはALSでは障害が軽いのであまり当てになりません。針筋電図(FDI)で異常が出やすいのでそちらを重視します。

針筋電図

脳神経1つ:僧帽筋/舌筋/咬筋/胸鎖乳突筋

頸髄2つ:APB/FDI、Biceps/Triceps

胸髄1つ:脊柱起立筋群(Th7or10)

腰仙髄2つ:TA/Gastro、Quad/Ilio

上記は私が大体調べる筋肉達です。全部刺すわけでは無く、患者の症状や筋力低下・委縮が強い筋肉を調べます。でもそれぞれ最低限しなくてはいけない数はあり最低でも6か所は刺します。

この中で注意が必要なのが脳神経です。一応検査の価値が一番高いのは『舌筋』ですが、安静を保つのがかなり厳しいという大きな欠点があります。安静が得られないと一番大事な『安静時電位』であるPositive P WaveやFibrillationが確認できないのです。安静時電位に関しては☆リンク☆参照してください。

そのため脳神経領域では比較的安静の得られやすい僧帽筋上部や胸鎖乳突筋を調べることもありますが、私は咬筋を攻めます。僧帽筋や胸鎖乳突筋は正確には脳神経だけではなくC1-2の支配も受けるため、若干精度が落ちるからです。

それ以外の四肢・体幹の筋肉はそこまで難しくないです。でも刺す筋肉は上肢遠位・近位、下肢遠位・近位から1つずつにして満遍なく調べるようにしています。

個人的にはTh7/10で所見が得られると本物っぽく感じます。ほかの筋は末梢神経障害(糖尿病とか)の影響が出やすいですが、Th7/10は体幹に存在し影響を受けにくいからです。

最後に

苦労して集めた所見を先の表と見比べて、Definite(確実)・Probable(疑い)・Possible(う~ん時間おいて再検査)に分けて判断します。こんな感じでALSでは筋電図が診断に非常に重要、というかほぼ確定診断となります。自分の結果で目の前の人の生命予後や難病指定、社会資源利用の手続き開始などが決まる医学・社会的重要案件です。なのでALSは一番神経使って調べています。

以上です。またお願いします。

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すずき Suzuki