筋電図の進め方②:肘部管症候群

総論などの以前の記事はカテゴリー筋電図から飛んでくださいm(__)m

肘部管症候群=尺骨神経麻痺

今回扱うのは尺骨神経が肘で障害される『肘部管症候群』です。

症状としては運動・感覚神経障害が認められ、運動障害では手先が不器用になったり小指・環指が勝手に曲がり伸びにくくなることがあります。感覚障害では小指~環指、手のひらの小指側の感覚低下・しびれが見られます。

運動障害のテストとしては色々ありますが中指内外転テストが一番わかりやすい気がします。これは下図のように示指と環指をくっつけてその上を超えるように中指を内外転するものです。

感覚障害で最も重要なのは前腕尺側(内側)には感覚低下・しびれが無いことです。前腕尺側は内側前腕皮神経という腕神経叢由来の神経なので肘部管症候群では障害されません。もし前腕尺側の障害がある場合は腕神経叢or脊椎脊髄疾患を疑います。

神経伝導検査

調べるのは以下の神経です。

①尺骨神経(運動・感覚神経) 絶対やる

②正中神経(運動・感覚神経) 補助診断

尺骨神経は絶対に調べます。その際に肘関節は90度または135度屈曲する必要があります。肘関節0度(肘伸展)では尺骨神経が緩んでいる≒距離測る時に測定誤差が出やすいため、少しテンションをかけるために肘を屈曲させます。

また肘部管症候群ではインチング法という手技をよく用います。インチングとはインチ≒30mmごとに尺骨神経を刺激して障害部位のおおよその目途を立てる手技です。

基準になるのはElbow(肘 筋電図では肘頭-内側上顆を結んだ直線上)であり、そこから遠位30 mm (BE30 Below Elbow 下図に書き忘れました)、近位3/6/9㎝(AE30,AE60,AE90 Above Elbow)で刺激を加え、どこで伝導速度(NCV Neuron Conduction Velocity)が落ちているかを見ます。

一応肘部管症候群にも診断基準があり

 ①AE-BEのNCV<50m/s

 ②AE-BEでBE-Wristに比べNCVが10m/s以上低下

 ③AEのAmplitude(電位 CMAPの高さ)がBEよりも20%以上低下

 ④AE刺激とBE刺激で波形の形が違う

①-④の少なくとも2つを満たすと肘部管症候群と診断されます。一応覚えておいて下さい。若干④はふわっとした基準ですが。

感覚神経SNAPは測定しますが特に肘部管症候群の診断基準には影響しません。SNAPのNCVが低下していないか一応調べます。

正中神経は肘部管症候群以外の末梢神経障害(糖尿病・抗がん剤・神経疾患)や腕神経叢障害・頚髄症などを除外するために用います。施行した方が良いですが後述の針筋電図(APB:短母指外転筋)で代用する時もあります。

なお尺骨神経のF波は肘部管症候群では測定する必要はないです。絶対に異常値になるので痛い思いさせてまで測定する意味が無いからです。

間違えやすいGuyon管症候群

肘部管症候群と似た病態にGyuon管症候群があります。

肘部管症候群が肘で尺骨神経がやられるのに対して、Gyuon管症候群は手首でやられます。詳しくは☆リンク:Gyuon管症候群☆で記載していますので見てください。

ポイントは

①尺骨神経CMAP〇SNAP× (ADM〇FDI×)

②尺骨神経手背枝のSNAPが正常

となることです。CMAPとSNAPで解離があるのがポイントです。

針筋電図

絶対刺す筋肉:FDI(短母指外転筋) FCU(尺側手根屈筋)

ほぼ刺す筋肉:APB(短母指外転筋) 

FDIとFCUは必ず刺して2つの所見を比較します。FDIは尺骨神経支配の最遠位筋なのですが、FCUは尺骨神経が肘部管に入る前に分岐するため肘部管症候群では障害されないのが特徴です。この解剖学的理由からFCUが正常であること確認します。まとめると肘部管症候群ではFDI×FCU〇となります。もしFDI×FCU×なら肘部管症候群以外の尺骨神経障害・腕神経叢麻痺・脊椎脊髄疾患が疑われます。

それ以外の筋肉はあまり刺しません。実はC8,Th1支配で調べられる筋肉ってあまりなくて、FDI/FCU/APB以外ではEIP/脊柱起立筋群くらいだからです。

まとめると

・FDI×APB〇FCU〇

 ⇒肘部管症候群

・FDI×APB〇FCU×

 ⇒尺骨神経障害・腕神経叢麻痺・脊椎脊髄疾患(ただしC8だけが特にやられるので、頻度はかなり低い)

・FDI×APB×FCU×

 ⇒腕神経叢麻痺・脊椎脊髄疾患(上記よりこちらの方が起きやすい)

となり、インチング法、FDIとFCUの所見の解離などに注意しながら検査を進めていきます。

以上です。またお願いします。

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すずき Suzuki